はじめに
「ロボットは東大に入れるか」というテーマで、2011年から2016年に研究・開発が進められた人工知能がありました。名前を「東ロボくん」といいます。この東ロボくんの研究・開発の過程で明らかになった重大な問題は、AIではなく人間(日本人)に関することでした。
東ロボくんの限界
2016年度までに大学入試センター試験で高得点を獲得し、2021年度の東京大学入学試験突破を目標としていましたが、2016年11月に東京大学合格を断念したことが発表されました。理由はAIには東大合格に必要となる読解力がないためです。膨大な知識はあっても、文章の意味や意図が読み解けません。模試の偏差値は57まで上がったのですが、現在のAI理論ではこれ以上の成績向上は不可能だということです。プロジェクトリーダーであった新井紀子さんは「コンピューターにできるのは基本的に四則演算のみで、数式に翻訳できないことは処理できない」と指摘しています。また、読解力こそ人間がAIに負けない分野なのだと説いています。
(出典:読売新聞)
明らかになった中高生の読解力のなさ
AIは先のプロジェクトでは東京大学に合格は不可能と結論づけられましたが、有名難関私大を含む7割の大学で合格可能性が80%となりました。つまり、読解力のないとされるAIが全受験生(人間)の平均値を大きく上回ったということです。この結果から次のような予想をすることができます。
①読解力の必要とされない部分でAIの成績が相当良い
②受験生(人間)の読解力がAIと同レベルかAIより低い
詳細はわかりませんが、①は知識を問う問題や公式に当てはめれば答えが出るような問題なのでAIの成績が良いのは当然でしょうか。問題は②です。新井氏は基礎的読解力を調べる「リーディングスキルテスト」を開発して数万人を調査した結果を踏まえ、次のように指摘しています。「多くの中高生は、AIによく似た、しかしAIに劣る能力しか身につけていなかった。」②は証明されているこということです。つまり「日本の中高生の読解力はAIに劣る」ということです。
読解力を伸ばすには
これからAIがさらに進化・普及していく社会において、人間がAIに勝てる読解力で劣っていては話になりません。「読解力ってそんなに必要か?」と思われる方もいると思いますが、読解力を高めるということは、文章をよく理解できるようになるだけでなく、物事や状況を理解できる能力を高めることに繋がってくるはずです。理解した上で、多角的に考えて新しい発想や最適な判断・表現・行動をアウトプットしていくことができるようになるのではないでしょうか。
以前のブログにも紹介しましたが、読解力を伸ばす方法は以下のようなものがあります。
- 読書
- 読み聞かせ
- 漫画
- 映画
- 演劇
- ミュージカル
- 落語
いずれも感想を話し合うようにするとさらに効果的だということです。
新井氏はアクティブラーニング(能動的学習)よりまず読解力を育てるべきという考えをお持ちのようです。読解力を育む指導法として、オセロの盤上の様子を小学生に状況説明させるなどの有効策を考案して実践活動しています。
出典:AI vs. 教科書が読めない子どもたち